金田一耕助の事件簿063b
消えた死体！騙される金田一耕助
「霧の別荘」（横溝正史）
（「金田一耕助の新冒険」）光文社文庫
依頼人の使いとともに
金田一が訪れたその別荘は、
内側から鍵がかけられ
応答がなかった。
カーテンの隙間から
窓を覗いてみると、
なんと別荘の女主人が
胸を刺されて血を流していた。
しかし、警察官を連れた金田一が
現場に戻ると…。
現場に戻ると死体が消えていた、という
ミステリです。
横溝正史の短篇作品であり、
不可思議な殺人事件が、
コンパクトにまとめられています。
【事件簿File-063b｢霧の別荘｣】
〔事件発生〕
昭和33年9月(長野･軽井沢)
〔依頼人〕
江馬容子
…金田一に伯母･紅葉照子の
警護を依頼。だが、その後、
照子にそのような姪は
存在しないことが判明。
〔捜査関係者〕
千代呂木警部補…K署捜査主任
長井良助…K署署長
等々力警部
…警視庁警部。ただし、このときは
休暇中で、金田一を訪問していた。
〔事件関係者〕
紅葉照子(西田照子)
…別荘で刺殺される。金田一が
発見したが、後に死体が消失。
西田稔
…照子の夫。故人。医学博士。
房子
…照子の姉。金田一が再度西田別荘を
訪れたとき、編み物をしていた。
西田武彦
…稔の甥。金田一が死体を目撃後、
西田別荘に到着した。
澄子
…西田別荘の女中。
杉山平蔵
…金田一を西田別荘に案内した
アロハの男。照子の映画関係の友人。
藤原
…事件のあった別荘一帯の管理人。
本作品の味わいどころ①
休暇中の金田一を訪問する等々力警部
金田一が静養地で
骨休めをしている最中に、
等々力警部が訪問し、
そこで事件が起きる。
本作品以外にも見られる、
横溝得意のパターンです。
こうなると金田一と
等々力警部のコンビが
事件を呼び寄せているとしか
いいようがありません。
ただし、本作品の等々力警部は、
管轄地外での捜査には
身を乗り出していません。
もっぱら金田一の話を
聞く役割に徹しています。
年齢的にはそろそろ定年退職が
見えてきたあたりでしょう。
無理は禁物です。
殺人事件が起きた割には、
どことなくまったりとした雰囲気が、
本作品の味わいどころといえます。
本作品の味わいどころ②
消えた死体！騙される金田一
金田一が見つけた死体は、
警察官とともに再度訪れたときには
消失していて、殺人の痕跡すらもない。
｢消えた死体｣。
これも横溝の得意の展開です。
もちろん
トリックが潜んでいるのですが、
多くの作品では、
騙されるのは一般人です。
ところが今回はなんと金田一自身が
騙されるのですから驚きです
(当然、金田一は｢疑わしい｣と
思いながら行動しているのですが)。
姉の房子のいうには、
照子は他の別荘を訪問中、
江間容子なる姪も存在せず、
金田一を呼び寄せた事実もなく、
アロハの男を使いに出した覚えもない、
まさに狐につままれたような
話なのです。
｢騙された金田一耕助｣という設定が、
本作品の二つめの味わいどころです。
本作品の味わいどころ③
第二の死体が！犯人のねらいは？
ところが翌日、
その照子の死体が発見され、
続いてアロハの男も
殺害されているのが見つかるのですから
只事ではないのです。
果たして犯人はいったい誰？
江間容子なる人物の役割は何？
死体が消え、
殺人の痕跡すら消えたのはなぜ？
そこにどういう仕掛けがあり、
どういう意味があるのか？
その謎解きこそ、本作品の
大きな味わいとなっているのです。
ただし、
あっさりとした印象は拭えません。
本作品も昭和33年に雑誌掲載された
短篇なのですが、その3年後の
昭和36年、約5倍に増量され、
中篇作品｢霧の山荘｣として
単行本収録されています。
本作品は｢霧の山荘｣の、
いわゆる原形作品なのです。
さて、
どのように書き加えられているか。
改編作品との比較もまた、
本作品の見逃せない
味わいどころとなっているのです。
（2018.9.17）
〔本書｢金田一耕助の新冒険｣収録作品〕
悪魔の降誕祭(原形版)
死神の矢(原形版)
霧の別荘 ｢霧の山荘｣原形
百辰譜 ｢悪魔の百辰譜｣原形
青蜥蜴 ｢夜の黒豹｣原形
魔女の暦(原形版)
ハートのクイン ｢スペードの女王｣原形
〔もう一つの｢原形作品集｣〕
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